戦略の古典

戦略の選択カスケード:どこで戦い、どう勝つか、何が真でなければならないか

戦略の選択カスケードは、戦略を 5 つのつながった選択として 1 枚に書く方法です。勝利のアスピレーション、どこで戦うか、どう勝つか、欠かせない能力、それを支える経営の仕組み。どこで戦うかとどう勝つかを対で考え、それぞれの対について「何が真でなければならないか」を書き出し、いちばん疑わしい条件を確かめてから、選んだ対に要る能力と仕組みを決めます。

要点

  • 5 つの選択:勝利のアスピレーション、どこで戦うか、どう勝つか、欠かせない能力、支える仕組み。
  • 中心:どこで戦うかとどう勝つか。必ず対で選ぶ。
  • 検証:この対がうまくいくには何が真でなければならないか。どれがいちばん疑わしいか。
  • 出すもの:1 枚の戦略と、担当つきの短い検証リスト。

どんなときに使うか、使わないか

戦略を 1 枚にまとめたいとき。2〜3 の戦略案のあいだで経営陣の議論がかみ合わないとき。今の戦略がビジョンの一文と施策の一覧だけになっているとき。会社全体にも、事業部にも、ブランドにも、1 つの部門にも使えます。事業部のカスケードは、会社のカスケードの中に収まります。

解くべき問題がわかっていることが前提です。核心の課題についてチームの意見が割れているなら、先に戦略のカーネルを書いてください。勝ち方がどれだけ長持ちするかが気になるなら、持続する優位の点検と組み合わせます。

5 つの選択

選択問い良い答えの形
勝利のアスピレーション勝つとは何か。誰にとってか1〜2 文。方向を示すもので、最初から作り込まない
どこで戦うかどの顧客、製品、チャネル、地域、バリューチェーンのどの段階か戦わない場所がはっきりするほど具体的
どう勝つかその顧客が、競合ではなく自社を選ぶ理由は何か優位の理屈。その場で競合より高い価値か、低いコストか
欠かせない能力その勝ち方をするために、何ができなければならないか競合がまねできない、またはまねしようとしない少数の活動
支える経営の仕組みその能力を何が育て、保つのか指標、予算、採用、育成、決める権限、定期の見直し

上ほど抽象的で、下ほど具体的です。マーティンは、これを上から下へ一度流すものではなく、行き来しながら詰めるものだと説明しています。下へ進んで能力がつくれないとわかったら、上に戻って対を考え直します。

どこで戦うかとどう勝つかは対で選ぶ

マーティンはこの 2 つを戦略の中心と呼び、順番に選んではいけないと言います。どこで戦うかは、それに合うどう勝つかがなければ意味を持ちません。例はフォーシーズンズです。ホテルを持つことや開発することではなく、高級ホテルの運営に絞ったからこそ、独自のサービスの形がつくれた。戦う場所を広げていたら、その形は弱まっていたはずだ、という話です。

どう勝つかは、本物の優位の理屈でなければなりません。「イノベーションを強化する」「デジタル化を進める」はもっともな目標ですが、良くなることを言っているだけで、誰かに勝つことを言っていません。どう勝つかは、選んだ顧客にとって、ほかの選択肢より自社のほうが価値が高い理由、または自社のほうが低いコストで応えられる理由を言います。

何が真でなければならないか

マーティンが戦略でいちばん価値のある問いと呼ぶものです。「この案は正しいか」と問うと、人は自分の立場を守り始めます。「この案がすばらしい選択になるには、何が真でなければならないか」と問うと、まず論理に合意でき、データの議論は後に回せます。条件は、業界、顧客、自社の相対的な位置、競合の 4 つの領域に分けて書きます。そのうえで、いちばん疑わしい条件を選び、何が確かめられたら納得するかを先に決めておきます。

例で見る

架空の会社を使った説明です。京都の手打ち包丁の工房。社員 22 人、親方は 3 人。売上の約 70% は百貨店経由で、3 年続けて落ちています。残りは自社のネットショップです。案は 2 つ。(A)国内のプロの料理人に直接売り、研ぎと修理をつける。(B)ネットショップで欧米の家庭の料理好きに売る。ただし東京の競合がすでに Amazon で海外に売っています。

  • アスピレーション:毎日その包丁で料理する人が、次もまた選ぶ工房になる。百貨店に頼らずに。
  • 対 A:国内の料理人。つくった本人が何年も最良の状態に保つ包丁で勝つ。いちばん疑わしい条件は、料理人が研ぎの契約にお金を払うか、親方 3 人で生産を落とさずに研ぎをこなせるか。
  • 対 B:海外の家庭。つくり手の物語と手仕事の質で勝つ。いちばん疑わしい条件は、小さなネットショップが見つけられ信頼されるか、すでに売っている競合と違いを出せるか。
  • 検証:付き合いのある料理店に研ぎの契約を提案する。1 か月分の研ぎ作業の時間を測る。海外からのネット注文の履歴を集める。
  • A を選んだら:欠かせない能力は、つくり手による研ぎ。百貨店で売る競合には出せません。仕組みは、工房の予定に研ぎの枠を固定することと、料理人の顧客台帳です。

カスケードのつくり方

  1. 範囲を決め、アスピレーションを書く。1〜2 文で方向を示します。最初から作り込みません。
  2. どこで戦うかとどう勝つかの対を 2〜4 つ書く。どう勝つかのない「どこで戦うか」は捨てます。
  3. 対ごとに、何が真でなければならないかを書き出す。業界、顧客、自社の位置、競合に分け、真かどうかはまだ争いません。
  4. いちばん疑わしい条件に印をつける。それぞれ、どんな検証やデータが出たら決着とするかを先に合意します。
  5. 対を選ぶか、検証と決める日を決める。根拠がないまま好みで選びません。
  6. 欠かせない能力を挙げる。競合がまねできない、またはしようとしない理由を添えます。
  7. 能力を支える仕組みを挙げ、上下に読み直す。各選択が上とかみ合い、下が上を実現できるかを確かめます。

選択カスケードのスキルを使えば、手元の事実でこの手順を進め、まだ確かめることに印をつけてくれます。

よくある間違い

  • 箱 1 つの戦略。アスピレーションや存在意義の一文だけでは戦略になりません。
  • どう勝つかで止める。能力と仕組みがないと、うまくいかなかったときに「実行が悪い」で片づけられます。
  • どこで戦うかを先に決める。市場の候補を並べて 1 つ選び、それからどう勝つかを考える順番は避けます。
  • アスピレーションを何週間も磨く。大事なのは対のほうです。
  • どこでも持っている能力を挙げる。それは土俵に残るための条件で、勝つ理由ではありません。

出典について

5 つの選択は、P&G の元 CEO の A・G・ラフリーと、その長年の戦略アドバイザーで、当時ロットマン経営大学院の学長だったロジャー・L・マーティンが、Playing to Win: How Strategy Really Works(Harvard Business Review Press、2013 年)で示しました。日本語版は『P&G式「勝つために戦う」戦略』(酒井泰介訳)で、2013 年に朝日新聞出版から出て、2023 年にパンローリングから再編集版が出ています。マーティンはその後も、HBR の論文「The Big Lie of Strategic Planning」(2014 年)や自身の連載で考えを深めています。このページは私たちが自分の言葉で書いた独立した要約で、著者や出版社の承認を受けたものではありません。

よくある質問

戦略の選択カスケードの 5 つの選択とは?

勝利のアスピレーション、どこで戦うか、どう勝つか、欠かせない能力、それを支える経営の仕組みの 5 つです。上下の選択とかみ合っている必要があります。

「どこで戦うか」を先に決めてよい?

よくありません。ロジャー・マーティンは、どこで戦うかは、それに合うどう勝つかがあって初めて意味を持つとして、2 つを対で考えるよう勧めています。

「何が真でなければならないか」とは?

選択肢が正しいかを言い争う代わりに、その選択肢がうまくいくための条件を書き出し、その論理に合意してから、いちばん疑わしい条件を確かめる進め方です。

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この手順を AI に任せるためのスキルが「戦略の選択カスケード」です。材料を渡すと、AI が同じ手順で進めて、決まった形にまとめます。

Claude、ChatGPT、コーディングエージェントで使えます。ポッドに入れると、チームの全員が同じ版を使います。

出典

  1. Publishers Weekly:Playing to Win の書評(Harvard Business Review Press) — 書名、版元、2 月刊行 (閲覧 2026-11-04)
  2. Harvey Schachter「Five savvy questions for strategic success」The Globe and Mail、2013 年 2 月 5 日 — マーティンがラフリーの長年の戦略アドバイザーだったこと、5 つの問い (閲覧 2026-11-04)
  3. Roger L. Martin「Decoding the Strategy Choice Cascade」(2023 年) — 5 つの箱、行き来しながら進めること、能力の検証、よくある誤用 (閲覧 2026-11-04)
  4. Roger L. Martin「On the Inseparability of Where-to-Play and How-to-Win」(2020 年) — 2 つを対で選ぶこと、フォーシーズンズの例 (閲覧 2026-11-04)
  5. Roger L. Martin「What Would Have to be True?」(2022 年) — 問いの立て方、論理を先に合意すること、条件の 4 つの領域 (閲覧 2026-11-04)
  6. Roger L. Martin「From Laudable List to How to Really Win」(2020 年) — どう勝つかは優位の理屈であって、改善の一覧ではない (閲覧 2026-11-04)
  7. 国立国会図書館サーチ:P&G式「勝つために戦う」戦略 — 日本語版(パンローリング、2023 年。2013 年の朝日新聞出版版の再編集) (閲覧 2026-11-04)