戦略の古典

シナリオプランニングのやり方

シナリオプランニングは、1 つの予測に賭けるかわりに、起こりうる複数の未来に対して決定を備える方法です。問いを 1 つ決め、影響が大きく行方が読めない要因を 2 つ選んで掛け合わせ、4 つのシナリオをつくります。それぞれの未来で決定を試し、見張る兆しと今打つ手を決めます。

要点

  • テーマではなく決定から始める。期間も決める。
  • すでに決まっていることと、決定的な不確実性を分ける。
  • 2 つの不確実性を軸にして、4 つのシナリオにする。
  • 打ち手で終える。どの未来でも効く手は今打ち、一部でしか効かない手は兆しに結びつけて待つ。

向いている場面、向かない場面

やり直しのきかない長い約束の前に使います。長期の賃貸契約、工場や設備への投資、採用計画、買収、海外進出などです。チームが 1 つの予測をめぐって言い合いになり、正直な答えが「場合による」のときにも役に立ちます。年に一度の戦略の見直しで、規制や技術や需要が悪い方に振れても今の戦略がもつかを試すのにも使えます。

来期の売上の見通しには向きません。それは予測の仕事です。分かっている市場の中で成長の道を比べるなら、アンゾフの成長マトリクスのほうが早く済みます。外の世界の動きで答えが変わりうるときに、手間をかける値打ちがあります。

押さえておく考え方

焦点となる問い。シナリオが答える決定と、その期間です。「この設備に 8 年のローンを組むか」のように書きます。「茶業の未来」のようなテーマからは、だれも動かない物語しか出てきません。

原動力。決定の成否を左右する身近な要因(客の需要、価格、費用、競合、人手、仕入れ先)の背後にある、社会・経済・政治・環境・技術の大きな流れです。

すでに決まっていることと、決定的な不確実性。流れの中には、すでに起きていて、どの未来にも現れるものがあります。一方で、決定に大きく効き、しかも本当にどちらに転ぶか分からないものがあります。影響の大きさと不確かさで順位をつけ、両方とも高い 2 つを選びます。

2 本の軸と 4 つの世界。不確実性ごとに両端の姿を決め、掛け合わせます。できた 4 つの枠がシナリオです。覚えやすい名前をつけ、期間の終わりの世界として書きます。

意味合い、兆し、打ち手。決定に戻り、それぞれの世界で試します。1 つのシナリオでしか良く見えない決定は、大きな賭けです。兆しは、世界がどれかのシナリオに近づいていることを早めに示す、観察できる印です。どの世界でも筋の通る手は今打ち、一部の世界でしか通らない手は兆しを合図に打ちます。

小さな記入例

架空の事実による例です。静岡県の製茶会社「青葉製茶」は、抹茶の原料になる碾茶(てんちゃ)の工場ラインを増やすかどうかを、半年以内に決めなければなりません。投資は 1 億 5,000 万円で、8 年のローンを組みます。売上の 4 割はすでに海外向けの抹茶です。契約農家 30 軒の平均年齢は 70 歳を超え、毎年数軒がやめています。県内のほかの製茶会社も碾茶の設備を増やしているという話がありますが、規模は分かっていません。海外の抹茶の需要がこのまま伸びるかは、社内でも見方が割れています。

決定的な不確実性は、海外の抹茶需要が伸び続けるか落ち着くか、ほかの会社の碾茶の供給が増えすぎるか増えないかの 2 つ。契約農家の高齢化はすでに起きていることとして、4 つの世界すべてに入れます。

他社の供給は増えない他社の供給が増えすぎる
海外需要が伸び続ける追い風:新しいラインが埋まる値崩れの入口:量は出るが単価が下がる
海外需要が落ち着く踊り場:ラインが半分空く在庫の山:8 年のローンが重い

ラインの増設がはっきり報われるのは「追い風」だけで、増設は賭けだと分かります。どの世界でも効くのは、原料の確保です。やめる農家の畑を借りる段取りや、若い担い手との契約は、需要が伸びても落ち着いても役に立ちます。増設は、海外の取引先からの複数年契約が取れたら、という条件つきの手にします。見張る兆しは、海外の取引先からの注文量(毎月)と、県内の碾茶の取引価格(季節ごと)です。答えは、今は増設を決めず、原料の確保を先に進め、半年後にシナリオを見直すことです。

進め方

  1. 焦点となる問いを書く。決定と期間を 1 文にし、決める人に確かめてもらいます。
  2. 身近な要因を並べる。決定の成否を左右する要因(需要、価格、費用、競合、人手、仕入れ先)を書きます。
  3. 原動力を並べる。要因ごとに、背後にある社会・経済・政治・環境・技術の流れを、出どころの言える事実から書きます。
  4. 決まっていることと、読めないことを分ける。すでに起きていることに印をつけ、残りを影響の大きさと不確かさで順位づけし、上位 2 つを選びます。
  5. 4 つのシナリオをつくる。不確実性ごとに両端の姿を決めて掛け合わせ、枠ごとに名前をつけ、決まっていることを全部入れて 1 段落ずつ書きます。
  6. 各シナリオで決定を試す。うまくいくこと、壊れること、やっておけばよかったことを書き、1 つの世界でしか効かない決定は賭けと呼びます。
  7. 兆しを選ぶ。シナリオごとに観察できる印を 1〜3 個選び、どこで、どのくらいの頻度で、だれが見るかを決めます。
  8. 打ち手を仕分けて決める。今打つ手、兆しを合図に打つ手、避ける手に分け、問いに答えて、見直しの日を決めます。

よくある失敗

  • 楽観・悲観・中間の 3 案。1 つの予測に幅をつけただけで、別の世界になっていません。
  • 決定に効かない軸。あるいは、効くけれどもう決まっている軸。
  • 物語だけで終わる。意味合い、兆し、打ち手こそが目的です。
  • ひそかな本命。どれかを「いちばんありそう」と呼んだ時点で、予測に戻ってしまいます。
  • 兆しの見張り番がいない。だれも見なければ、シナリオは何も動かしません。

出どころ

ロイヤル・ダッチ・シェルの計画部門で事業環境を担当する部署を率いたピエール・ワックが、エドワード(テッド)・ニューランドとシェルのシナリオの方式を作り、1985 年に Harvard Business Review の 2 本の論文「Scenarios: Uncharted Waters Ahead」「Scenarios: Shooting the Rapids」で紹介しました。ワックは、予測に頼る計画は落ち着いていた 1950〜60 年代にはそれなりに機能したが、1970 年代初めから予測の外れが増えたと書いています。strategy+business のアート・クライナーの記事は、1972 年の経営陣への報告がエネルギー危機を見越していたこと、シェルが地道な備えを始め、危機が来たときに有利な位置にいたことを伝えています。同じ記事は、シェルがのちに自社のシナリオの警告を聞き流したこともあったこと、ワックがシナリオだけでは経営者の頭の中の地図を十分に変えられないと考えたことにも触れています。シェルの計画部門の出身であるピーター・シュワルツは、手順を The Art of the Long View(Doubleday/Currency、1991 年)にまとめました。2 つの不確実性を掛け合わせる 2×2 の表は、シナリオのよくある組み立て方ですが、唯一の方法ではありません。ラミレスとウィルキンソン(2014 年)は、研究者がこれを標準の方法と呼んできたことを紹介し、その限界を論じています。このページは私たちの言葉による独立した要約で、著者や出版社、シェルとは関係がなく、承認も受けていません。ほかの枠組みは戦略の本のガイドにまとめています。

よくある質問

シナリオと予測は何が違う?

予測は、起こると見込む 1 つの未来を示します。シナリオは、起こりうる複数の未来を並べ、どれも「本命」とは呼びません。決定をそれぞれの未来で試し、兆しが見えたら打ち手を切り替えるために使います。

シナリオはいくつ作る?

4 つがよく使われます。影響が大きく、行方がいちばん読めない 2 つの要因を軸にして掛け合わせます。多すぎると、チームが覚えていられません。

シェルは 1973 年の石油危機を予言した?

日付を当てたという意味ではありません。strategy+business のアート・クライナーの記事によると、1972 年の経営陣への報告がエネルギー危機の可能性を描き、シェルは備えを始め、危機が来たときには有利な位置にいました。

無料の AI スキル

AI スキルとして使う

この手順を AI に任せるためのスキルが「シナリオプランニング」です。材料を渡すと、AI が同じ手順で進めて、決まった形にまとめます。

Claude、ChatGPT、コーディングエージェントで使えます。ポッドに入れると、チームの全員が同じ版を使います。

出典

  1. Harvard Business Review:Scenarios: Uncharted Waters Ahead(ピエール・ワック、1985 年) — ワックとニューランドがシェルの方式を作った。1970 年代初めから予測の外れが増えた (閲覧 2026-11-04)
  2. Harvard Business Review:Scenarios: Shooting the Rapids(ピエール・ワック、1985 年) (閲覧 2026-11-04)
  3. strategy+business:The man who saw the future(アート・クライナー、2003 年) — 1972 年の報告、シェルの備え、経営者の頭の中の地図 (閲覧 2026-11-04)
  4. Mind Tools:Schwartz's 8-step process — The Art of the Long View の手順 (閲覧 2026-11-04)
  5. Ramirez and Wilkinson:Rethinking the 2×2 scenario method: Grid or frames?(Technological Forecasting and Social Change 86, 2014, 254–264) — 2×2 が標準とされる方法であることと、その限界 (閲覧 2026-11-04)
  6. Open Library:The Art of the Long View — 1991 年 Doubleday/Currency 版 (閲覧 2026-11-04)